松尾先生:
日本で全館暖房みたいなのが出だしたのって、ここ2年とかそういうレベルですよね。
小暮:
そうですね。この全館空調についてもお聞きしたいんです。ウチは今全館空調にしていまして、松尾先生に教えてもらった床下エアコンをやっています。本当に電気代がかかんないんですよ。夏は24時間ずっと回したって本当に月に5千円とか6千円ですし、冬は床下エアコンやっていて、ちゃんと日射取得が出来ていれば1シーズンでも数万円です。でも消費者の方って、すごくお金がかかるイメージを持っていらっしゃいますね。
松尾先生:
それは、僕が小暮さんを指導した時にもちゃんとお伝えはしてるんですけど、全館空調という言葉は、お客さんにはNGワードだよって言ってるんですね。私は今44歳でこの業界入って22年目なんですけれども、私が最初に入社した住宅メーカーでも全館空調というのが25年くらい前からありました。家中を配管だらけにして、凄いでかいエアコンを使って。
小暮:
昔の大手メーカーさんのやつですね。
松尾先生:
そうです、だいたい大手メーカーだとオプションで300万とかでしたね。しかもギャグみたいな話ですけど、全館回したら確かに家全体暖かくなった涼しくなったけれど、ひと月の暖房費が3,4万きたみたいな。こんな高いの使ってられへん、使うのやめようみたいな。こんな話が普通にまかり通ったのが当時の全館空調だったんですね。
小暮:
そういうのがいまだにあるんですかね、イメージで。
松尾先生:
今もありますね。全館空調という言葉にはその時の名残がある。やっぱりプロの間でも素人さんの間でも、NGワード的な感じがあるんですよ。そうじゃなくて1台のエアコンで家全体が暖かくなりますよ。1台のエアコンで家全体が涼しくなりますよという言い方だったら、これを嫌だという人ってたぶんほとんどいらっしゃらないはずです。
小暮:
ウチも小さなエアコン1台で家中が涼しいという言い方にしています。
松尾先生:
はい。だからウチの場合も、エアコン1台もしくは2台。小暮さんの所も同じですね。2台付いてる家でも2台同時に動くことってほとんどなくて、暖房の時は1階の床下の所にあるエアコンで暖房をする。冷房の時は小屋裏にあるエアコンで冷房するということがメインになるので。2台ついてても、実際動くのは1台ですよね。
小暮:
全館空調と言えば、最近ちょっとブームなのか、いろんな会社がやり始めているじゃないですか。最終的にはどんな方法であっても家の中の湿度がちゃんと落とせて温度が保たれればいいと思うんですけど。あまりにも複雑なシステムって、よく松尾先生が口にされる交換コスト、メンテナンスコストが物凄くかかるんじゃないかとは思うのですが。
松尾先生:
そうですね。ちょうど最近も、他社の全館空調システムを13年か14年前に付けたけれども、それをそろそろ空調が壊れる時期なんで、空調を交換する見積をお願いしたら250万って上がってきたというお客様がいらっしゃいました。
小暮:
13年ですよね。13年で250万ですか。
松尾先生:
そうです。それもダクトとかはそのまま残して、空調機器本体だけを交換するという話なんですけど、見積書を本当に見ましたけど250万って出てましたね。
小暮:
13年で250万というと、1年間で20万ずつかかってるんですか。
松尾先生:
まぁそうですね。もうそれを作っていたメーカーが撤退してしまってるんですね。私自身いろんな建築の専門誌とかでは、汎用品をできるだけ使いましょうというのを徹底してるんですけど。これ僕自身の結構痛い経験があってですね。私が高校1年生の16歳の時に父親が住宅メーカーの家を設計して建てたんですけれども。その家は結構バブルの頃だったというのもあってですね。オートロックがついてて、電動シャッターがついてて、セントラルクリーナっていって。壁にガチャって突っ込んだらこう掃除機が吸えるみたいなのが付いてて。
小暮:
そんなのお持ちだったんですか。
松尾先生:
それから泡風呂が付いてて、家庭内インターホンが付いてて…ただもう全部やっぱりね、5年10年経っていく中で壊れていくんですね。壊れた時に交換部品がない。後、天カセエアコンもありましたね。
小暮:
昔流行りましたね。
松尾先生:
はい。交換部品がないか、あったとしても凄い高くつく。しかもそれが電気屋さんにいけば今よりずっと安い。見積りよりずっと安い値段で買えるってなったら、もう1世代で終わるんですよね。だから、実家で今でも動いてるのって泡風呂だけじゃないかな。もう全てのやつが放置。玄関のロックでもカギで入るようになったし。それから天カセエアコンも外すのにお金がもったいないからということで、残したまま壁掛けエアコンが付いてます。
小暮:
あと壁掛けエアコンも、隠蔽する会社ってあるじゃないですか。配管がカッコ悪いからって。通常私なんかは壁掛けエアコン付けて、壁抜いて外でこうやってスリムダクトでやるのですが、あれを壁の中で隠蔽する会社もありますよね。もし漏れたらどうすんのかなと。
松尾先生:
まぁそうですね。漏れるのってドレン配管の方ですけど、エアコン本体は平均利用年数13年です。エアコンの本体を下から覗くと、このエアコンの想定使用年数は10年ですみたいなシールが絶対貼ってありますので、エアコン本体は10年から13年で寿命が来ると考えていればいい。ただ、難しいシステムを組み過ぎてると、交換する時に凄いお金かかるんです。大工呼んでクロス屋呼んで、電気設備屋呼んでという話で。監督も入れたら4人の人が来ないと修理できないみたいな。
小暮:
そうですよね。
松尾先生:
一般の方はご存知ないと思うんですけど、今、この業界は職人さんが凄く不足してるので、たかがエアコン交換するだけで4人の人間がいるとなったら、当然その4人の人件費もかかってくる。現実的に呼んでもなかなか来てくれないしという話にもなります。
小暮:
やっぱり何て言ったって、その家の基本性能を上げることがまず第一ですよね。機械はなるべくだったら使わない方がいい。それもまぁカッコいいかもしれないですけどね、隠蔽するとかはやらない方が良いとは思うんですけどね。
松尾先生:
後でメンテナンスとかができる項目であれば、デザインをきれいにするというのは決して悪いことではなくて、むしろ素晴らしいことですが、メンテナンス、交換が後できちんとできるかどうかですね。皆さん新築の時というのは住宅ローンから支払いが行われるので、あんまり自分の腹が痛む感覚がないのですが、築後10年というのは子供も受験シーズンに入っていて、お金が一番苦しい時期。その時に自分の銀行口座からキャッシュで出ていくという話になりますから。だからそういった意味でも、汎用品でできるだけ簡単に組んでおくというのは凄い価値があるなという風に思ってます。
小暮:
まぁメンテナンスコストも考えて作んないと、見た目の格好良さだけで選んじゃったら後で大変ですよということですね。
松尾先生:
そうですね。13年ということは普通のだいたいの方が35歳ぐらい中心に建てる方が多いので。次48歳、61歳、74歳…。
小暮:
今長生きしますからね。もう1回ありますもんね、86歳。
松尾先生:
ちょうど昨日僕、次の講演のためにパワーポイント作ってたんですけれども。僕は1975年生まれなんですが、僕が死ぬ年齢を今の平均寿命の推移で計算したら、90何歳というのが僕が死ぬときの平均死亡年齢なんですよ。だから今はだいたい男性の平均死亡年齢80歳ですけど、もう僕が死ぬ頃になったら90歳。男でも90超えるという感じ。
小暮:
医学も発達しますからね。
松尾先生:
だからその間、13年おきにエアコン交換時期がくる。
小暮:
それはキツイですよね。
松尾先生:
だから設備はずっと追っかけてくるんですね。外壁の表面はやっぱり傷んでくるから、そうですね、長く見て30年に1回位はやっぱり何らかのメンテナンスがいると思いますけど。中の断熱材を交換しようとか、柱を交換しようというのは、もうそれは基本的にはないので。1回、最初に入れればずっと使えるので、そこはやっぱり大きく違う所ですよね。
対談第二弾
Vol.1 最低の断熱基準さえも義務化できない国
Vol.2 HEAT20 G2でも欧米では最低レベル
Vol.3 全館空調はメンテナンスコストに差が出る
Vol.4 太陽光発電はつけないと損をする
Vol.5 現時点では蓄電池より〇〇〇の方がいい
Vol.6 断熱材は 材質×厚みで考える
Vol.7 外断熱か、内断熱(充填断熱)か
Vol.8 木造と鉄骨はどっちが丈夫か?
Vol.9 大手はなぜ樹脂サッシを使わないのか?
Vol.10 住宅会社を見分けるチェックリスト
Vol.11 太陽に素直な設計
Vol.12 中古住宅リフォームの注意点