小暮:
ちょっと話が戻りますが、全国の色んな所で講演されている先生からみて、そういった性能の良い家づくりに取り組んでいる住宅会社は、大きな会社も含めてまだまだ少ないですか?
松尾先生:
ここ5年ぐらいで、各社の断熱化っていうのはかなり進んできました。けれど、まだまだ割合はそんなに多くはありません。「断熱・気密」っていうのは第一段階に過ぎない。第二段階の「太陽に素直な設計」でいう、冬の日射は取り入れて夏の日射は遮るっていう会社になると、まだまだ・・・。
小暮:
例えば窓のつけ方とかですね。
松尾先生:
そうです。さらには、最終段階の「冷暖房の上手な使い方」というところまで出来ている会社は、もうほぼ皆無に等しい。最近、全館空調システムと銘打った新製品が次々と発表されていて、大体、工務店の原価で140万から200万ぐらいっていう値段設定の製品が多い。
小暮:
そうですね、最近すごく多いですよね。
松尾先生:
そこに工務店の利益が乗るとお客様には多分200万前後ぐらいになるはずです。
小暮:
しますよね。
松尾先生:
エアコンなら取り付け費込みで、2台で30万とか40万とかです。そこと比べると150〜200万はかなり高い。4〜5倍になってしまう。
小暮:
高いですね。
松尾先生:
そうなってくると、お金持ちのお客さんだけの贅沢品になってしまう。私はどのお客さんでも付けられるような価格帯で冷暖房計画が出来る事が、非常に重要なポイントだと思っています。
小暮:
確かに最近は全館空調システムという製品がたくさん出ていますが、ただ、先生にいつも教えてもらっているように、そもそもシステムを導入する前に、断熱・気密や窓の設計が正しくないと、あまり効果が無いのに、これだけ売ってどうするの?というのが物凄く疑問なんですね。
松尾先生:
そうですね。僕はいつも「裸にカイロ」の例の話を良く言います。皆さんも興味があれば、ぜひYouTubeで見ていただければ、素っ裸にカイロを20個ぐらい貼っている青年が出てきます。殆どの家がやっているのはあれなんです。極めて薄着の状態でいるくせに、寒すぎるからと、毎日交換しなければならないカイロを貼りまくっている。これは断熱性の低い住宅で、暖房エネルギーを使いまくっているのと全く同じ構図です。
松尾先生:
暖かさっていうのは差し引きなんです。熱のロスを少なくするか、熱をたくさん足してやるか。裸にカイロっていうのは、損失が大きい分プラスをたくさん足して差し引きゼロにしているだけ。当たり前ですけど、断熱・気密性を高めて日射取得を増やせば殆ど損失、マイナスがゼロに近くなる。そうすると足す量もちょっとでいいと言う。これを洋服に例えるならしっかり厚着する事によって、カイロがゼロ若しくは1で充分暖かいと言う状態です。
松尾先生:
洋服で考えたら当たり前の事が、家になるとおかしな事が行われている。冷房も全く同じことですね。日射熱がたくさん入って来て、屋根からも太陽の熱がガンガン入って来て、そしたら冷房を効かせる量が多くないといけない。それを極限まで減らす事が出来れば、冷房エネルギーも減らすことが出来る訳です。やっている事はただ単にこれだけなのに、皆、エネルギーを足す方には凄く興味がいくんだけど、減らす方にはあんまり興味がいかないみたいですね。
小暮:
ゼロエネ住宅っていうのも、そう言うのが多いんじゃないでしょうか。家の性能を上げて、足すエネルギーの方を少なくした上で、最低限の太陽光を付けるのだったらいいのですが、気密断熱はそこそこなのに、凄いデカい太陽光を付けるのは理屈としてどうなんでしょうか。
松尾先生:
そうですね。全部の住宅メーカーとは言わないですけど、大半の住宅メーカーがされているのは、断熱性をそこそこにして、暖房設備も冷房設備もまあまあな大きさのやつを付けて、それをゼロエネにする為に、まあまあな大きさの太陽光発電を乗せるというのが主流なやり方です。
松尾先生:
でも、これって素性の悪さを誤魔化すために、設備を一段乗せ二段乗せってしていくようなやり方です。食材でもそうですけど、あんまり材料の良くない野菜や肉を買ってきて、それを誤魔化す為に、下ごしらえと味付けを物凄く濃くするようなやり方です。
小暮:
確かに。
松尾先生:
本当に美味しい材料ならば、逆に素材の良さを邪魔しない様に調理した方が美味いはずですよね。
小暮:
その方が健康に良いですもんね。
松尾先生:
色んな例え方があると思うんですけども。車で言ったら、ボディ剛性がしっかりしてれば、別に電子制御の部分っていうのは、そんなに足さなくても良い訳です。ところが、素性が悪いボディを作ってしまうと、もう電子制御であっちこっち補正するのが大変になる。車の世界では「基本性能は設備に優る」という格言がありますが、全てにおいて当てはまる格言じゃないかと思いますね。
対談第一弾
Vol.1 日本の住宅基準はかなり遅れている
Vol.2 夏は入れない、冬は入れる
Vol.3 出木杉くんが嫌われる
Vol.4 日本の家は「裸にカイロ」
Vol.5 絶対に確認すべき3つの数値
Vol.6 安易な工法やシステムに騙されてはいけない
Vol.7 共働き夫婦の時短を考える
Vol.8 努力しない「ラーメン屋」は淘汰される