今回は先日お客さまからいただいた質問について解説します。
いただいた質問は「断熱性が高いのであれば窓は大きくてもいいんですか?」という質問です。合っているような間違っているようなという感じです。
パッシブ設計の理屈として、日射取得ができる面の窓は大きくし、その他の面はなるべく風通しや明るさが取れる大きさの窓を設置した方がいいです。ただしそれはあくまでも原則です。例えば西面からしか日射取得ができない場合は、西面の窓を1個大きくして、そこから多少でも日射取得をすることもあります。日射取得は冬だけではなく夏にも効くので、それも考えなければいけません。この問題は難しいです。
性能が高い家であれば熱損失が減っているので、多少窓が大きかったとしても、性能の低い家に大きい窓を付けるより、総量としてはいいですよね。例えば2軒の同じ家があって、1軒はUA値0.87(断熱等級4)、もう1軒はUA値0.4だったとします。UA値0.87の家の窓は小さくしてなるべく熱損失を減らすとか、UA値0.4の家は性能が良いから窓を大きくしても大丈夫、などというのはわかります。ただそれは、UA値のみでで比べるから言えることです。
仮に同じ数値のUA値の家であった時に、一方は南面に大きい窓を付けて、他の面には大きな窓は付けない、もう一方は、窓面積は一緒だけど小さい窓をまんべんなくいくつも付けるとします。すごく極端な例ですが、窓面積が変わらないので計算上のUA値は同じです。ただ実際は、南面に大きい窓を付けた方がUA値はいいです。厳密には建物の形や日射の入り方などの都合もありますが、単純に言うとこんな感じです。同じ窓面積でも、窓の付け方によって住み心地(温度変化)は変わります。計算ではなく実際の体感的な部分です。
今回の質問でいただいた内容は、パッシブ設計の理論ではなく、そもそも家の性能が良ければ窓は大きくてもいいのか?という話です。例えば極端ですが、家の性能がいいことを理由に、東面と西面の窓を大きくして、南面の窓を無くすなどした時に、窓面積は一緒だから計算上は変わらないんだけどこういう窓の付け方はどうなんですか?という話です。こういう窓の付け方は、熱が入らずに出ていく方法になっているので、計算値が同じだったとしても実際の結果は確実に悪くなります。このあたりが家づくりは難しいんです。
ただ、消費者の方でこういう理屈を正しく理解している方というのは、ある程度勉強して理解している方だと思うし、そうでなければわからないと思います。住宅会社さんの中でもこういうことを理解していない会社は多いです。高性能住宅を作っている会社さんでも、不用意に東西南北に関わらず大きい樹脂窓を付けている会社もあります。当社のモデルハウスの周辺にも、裏(北側)に家があるのに北側に大きい樹脂のFIX窓を付けている家があります。「樹脂窓をなんでそっちに付けるの?」と全く設計上意味がわからないです。何かのインパクトを狙って付けたのかもしれないけど、他人の家が建っている面だからそんなにインパクトはないと思うし、正直意味不明です。
この質問者さんに「断熱性能が良ければ窓が大きくてもいい・問題ない」という話をどこで聞いたのかと聞いたところ、とある大手ハウスメーカーさんに見学に行った時に「高性能な大きな窓を使えば、東西南北どこに窓を配置しようと、そんなに問題ない」と言われたそうです。高性能な大きい窓を付けることによって開放感が生まれて空間が広がる、みたいな感じです。例えば角の2面に大きな窓を付けて、パーンと開放感があり、庭を付けて外と中がつながる空間のある素晴らしい家、などというのが高性能な窓を使うことによって可能になるし、こういうのがいいという話です。たしかにそれは私も一理あると思っています。
当社が作っている家をホームページで見ていただくと、南面に大きな窓を付けています。日射取得的にはあんなに大きくなくても取得はできるので、率直に言いますとあんなに必要はなく、多めに付けている側面はあります。多めに付ける理由は何かというと、中と外をつなげるというところと、春と秋の風通しの良さ、窓を開けた時の気持ち良さです。窓が大きいと夏は暑くなってしまうかなというのはあるけど、他の季節の気持ち良さを考えると、窓を大きめに付けて外観的なインパクトとともに外と中をつなげるというのは、私はいいことだと思います。
ただ他の動画でも言いましたけど、これからは温暖化対策も含めつつ、窓の大きさを削減というか少し減らし気味にしていくつもりです。2階建てであれば2階の窓は掃き出し窓ではなく腰窓系も入れたり、UA値を多少低減し、開放感を出しながら家づくりをしていくということも、これからは必要なのかなと思います。そのあたりは今後の設計の中でも多少変わっていくと思います。
話を戻します。窓を大きくすることによって外と中がつながることはいいんだけど、窓はやっぱり弱いんです。トリプルガラスの窓を使ったとしても、壁の中に入っている断熱材と比べると半分ぐらい熱損失します。トリプルガラスを使ってもそんなものです。
大きい窓を付けて中と外をつなげる開放感のある家づくりをするのであれば、樹脂窓のトリプルガラスを付けるのが前提になると思います。最近は、アルミ樹脂複合窓でもU値が少なくなっているものもあります。ただ、ガラスの性能を高めて窓全体のU値を上げている傾向もあるので、窓の枠はどうしても弱く、大きい窓ほど枠の部分の弱さが出てくるので、できれば樹脂窓を使った方がいいと思います。
しかし、大手ハウスメーカーさんを含めて樹脂窓を使うことは必要ないと言われる方もいます。個人の住宅会社・中小工務店でも樹脂窓を使う必要はないと言い切る方が今でもいらっしゃいますが、それはないと思います。樹脂窓はちゃんとした耐久性もありますし、もっと言うと、正直今は樹脂窓よりも高性能なアルミ樹脂複合窓の方が高いです。意外と勘違いしてる人がいらっしゃいますが、高性能な樹脂窓というのは言い方を変えると、弱いものにお金をかけて力技で高めている作り方なので、嫌でなければ樹脂窓を使った方がいいと思います。
確か私のメルマガの感想で「地元の工務店さんと打ち合わせた時に標準仕様がアルミ樹脂窓で、樹脂窓にしたいと言ったら差額なしでOKと言われたからすごくラッキーだった」と書いていた方がいました。それはもしかしたら、樹脂窓の方が安かったのかもしれません。大きさによって違いますが、小さい物であればトリプルガラスでもそんなに高い物ではないです。掃き出し窓の大きいトリプルガラスは、値段も高いし重たくて開かないこともあるのであまり好きじゃないんだけど、アルミ樹脂窓も意外に高いです。LIXILさんの超高性能アルミ樹脂窓は、以前見積もりを取ったことがありますが、樹脂窓よりも高くてびっくりしました。「なんでこんなに高いの?」と聞いても「なかなかお金かかっているんですよ」と言われると確かにそうだよねとなります。枠が細くてデザイン性がいいということで選ぶのであればいいのですが、安いと思ってアルミ樹脂窓を選ぶのであれば、素直に樹脂窓を使った方がいいと思います。
断熱性が高ければ大きい窓を使ってもいいと言っているメーカーさんは、本当にうまいです。特にネーミングがすごいです。名前だけですごいと感じてしまいます。ただ、実際どんな窓なのかを調べると、普通のアルミ樹脂窓だったというオチになっちゃうんです。でもそういうのに一定数騙されたり、惑わされる人がまだいます。みなさんは大丈夫だと思いますが、くれぐれもお気を付けください。