https://youtu.be/Sc4HMsDz6Jw
今回はセルロースファイバーの断熱について解説します。
セルロースファイバーの断熱について、最近YouTubeにいただいた質問と同じような質問がメルマガでもありました。これまでも2~3本動画を上げたと思いますが、最近は全然上げていなかったので、改めて上げてみます。
質問のやり取りはこんな感じです。
質問「教えていただきたいのですが、屋根と壁はセルロース、床下のみにミラフォームを使用すると大工さんから言われました。やはり床下もセルロースの方がいいのでしょうか?ご意見いただけたら嬉しいです」
小暮「当社も壁・天井・床下の断熱材はバラバラです。例えば床はそんなに厚みがないし、床の懐が決まっています。その中で性能を高めようとすると、セルロースファイバーよりもミラフォーム(プラスチック系断熱材)の方がより薄くて高性能になるので、床下をいじめなくていいですよ」
質問「ありがとうございます。やはりそうなんですか。床断熱もセルロースで、全体をセルロースで囲ってしまうと、とても高性能そうだなと思っていましたが、施工性から自ずとそうなるのですね。いつも大変勉強になっています。ありがとうございます」
小暮「セルロースファイバーは性能的には低い断熱材です」
質問「正直なところ、セルロース=最強のマジックにかかっています。性能値が低いというのは紛れもない事実なのでしょうか?」
小暮「セルロースの原料はただの新聞紙なので、そんなもんです」
質問「はっと気づきました。大変ありがとうございました」
という感じのやり取りでした。
でも、ネットで検索すると「セルロースファイバー最強伝説」などと出ると思います。あれが頭に残っているのかもしれないし、セルロースファイバーが好きな方・使ってる会社さんが、「セルロース最強!」などと言ってそういう所に売っているのかもしれません。
最強と言っても、何を以って最強か難しいですよね。でもセルロースファイバーって断熱材ですよね。客観的な事実として、断熱材という視点で見ると、別に最強ではないです。むしろ最強というよりも、下の方に近いかなという感じです。
最強なのは、ネオマフォーム・アキレスのキューワンボードなどです。あれは性能値も高いですから。その下か同率で、30倍硬質発泡ウレタンがあって、その次に36Kみたいな超高性能グラスウールが来ます。次には普通グラスウールが続いて、その下にセルロースファイバー、羊毛断熱材と続く感じです。ウッドファイバーもその辺りです。
これはあくまでも熱伝導率だけで比べているので、最終的な性能でいうところの熱抵抗値は、断熱材の厚みによって違います。今私が言っているのは、同じ厚みであればこういう順番になるという話です。
ただ、性能が悪いと言われるセルロースファイバーでも、例えば一番性能のいいネオマフォームの倍の厚みを持たせれば、同じになります。
しかし、例えば壁って厚みが決まっていますよね。あの中で断熱材を倍にするには、単純に壁の厚みを倍にしなければいけません。そうすると部屋は狭くなりますし、そうすることによって建物面積が増える、などとなると、倍にするのは難しいです。
断熱材はいろんなところに波及します。そういうところも含めて選ぶものです。
ネットで調べて出てくる、セルロースファイバーのすごいところは、防火性能が高い、害虫予防効果がある、防音性能が高い、壁体内の結露防止効果がある、エコな商品がある、この5つです。1つずつ解説していきます。
まず防火性能が高いという点についてです。セルロースファイバーは新聞紙だから燃えますよね。燃えにくいというのは、次の防虫効果も同じですが、ホウ酸という薬剤を添加しているためです。こうすることで火がつきにくくなります。
以前メルマガ動画で、「断熱材を燃やしてみた」という動画を上げました。セルロースファイバー・グラスウール・発泡ウレタン・プラスチック系断熱材を燃やしてみたらどうなったか、という動画です。
あの中でセルロースファイバーは、バーナーを当てても燃えませんでしたよね。あれはホウ酸の効果です。
また、細かくカットしたものが蜜になっているので、火がつきづらいという点もあります。1枚の新聞紙だったらボーッと燃え広がりますが、セルロースファイバーはそれを細かく切っていますから、なかなか火がつきにくいです。
ということで、防火性能・防虫効果は事実です。
次に防音性能です。これは施工によります。
セルロースファイバーは、それ単体の性能は低いので、壁の中に思いっきりギューギューにして、潰す感じで吹き込まないと、すき間ができて性能が上がらないのです。
しかしギューギューにすると、施工が悪いと天井と壁の間がすいてきてしまいます。そうならないように、壁の中で細かく区切って吹くようにします。
絵で描くとこんな感じです。天井・床・壁があって、壁にセルロースファイバーのシートを貼り、上から穴を開けてセルロースファイバーを吹きます。天井から床までの高さは2.4mほどですが、この高さを1回でまとめて吹くと、場合によっては年月が経ってから、一番上のところが沈下してしまいます。また、吹き込み密度が少なくても沈下してしまい、結果その沈下して開いたすき間から音が漏れたりしてしまいます。
そうならないように、できれば壁の中を3分割にして、そのそれぞれで吹き込むようにします。こうするとなかなか沈下しにくいです。
ただ、これをやるためには大工さんがちゃんと下地を組む必要があります。吹き込む人も手間がかかりますから、嫌がられると思います。
しかし、セルロースファイバーを長く使っていて慣れている会社さん、ちゃんとセルロースファイバーの特性をわかっている方は、細かくやっています。壁の中を2~4分割にしていて、1つにして吹くということはなかなかしません。
もしセルロースファイバーを使っていると言っている会社で、天井と壁の際を上からまとめて吹いている会社があったら、セルロースファイバーの特性をわかっていないのかもしれないと感じてしまいます。せっかく防音効果があるものも、すき間があいては防音効果も薄れてしまいますから。
4番目が、壁体内の結露防止効果です。セルロースファイバーで除湿・調湿ってよく言いますよね。
しかし、調湿というより、新聞の中に水を吸うだろうと思います。そもそも壁の中は濡らしたらまずいですよね。濡れた布団になってしまったら、暖かくなりません。断熱材は基本的に乾燥している方がいいので、これは求めてはいけないと思います。
ただ、まかり間違って中に水が入ってしまった時には、新聞紙がちょっと吸ってくれて、あとで放出してくれる、という感じです。よく「バリアになる」という言い方をします。私もそういう効果はあると思います。
そういう風に使うならいいけど、結露防止効果と言っていいかとなると、はてなマークだと思います。そもそもセルロースファイバーに調湿材までの性能はありませんから。そもそもそういう風に使うのは、断熱材としてはよくないんじゃないかと、個人的には思います。
最後はエコな商品ということです。「エコ」と言うと難しいですよね。グラスウールもガラスを再利用して作っているので、エコと言えばエコです。新聞だけエコというわけでもありません。ウッドファイバーだって木だからエコ、羊毛だって羊の毛だからエコです。セルロースファイバーだからエコ、ではないと思います。
強いて言うなら、プラスチック系の断熱材や発泡ウレタンは、エコではないかもしれません。人工的に作られているものも混ざっていますから。そういう意味では違うかなと思います。
いろんな失礼なことも言ってきましたが、私だってセルロースファイバーを使っています。屋根断熱にセルロースファイバーを30cm吹いて、熱抵抗値7.5ぐらいまで持っていっています。性能が悪い分、300mmも吹いています。
その中でなぜセルロースファイバーを使うかと言うと、今まで話してきた火災・防虫・防音・壁体内結露防止・エコな商品ということよりも、私は熱伝導率の問題や、熱欠損が起こりにくいという点で考えています。いろんな人の考え方があるから何とも言えませんが、私はこっちの方が重要なんじゃないかと思います。
ただ一言言えるのは、断熱材としてはセルロースファイバーは最強とは言えないということです。質問にあった「セルロースファイバー=最強のマジック」というのは、今でもあるんでしょうか。セルロースファイバーを使うと性能が高いとか、家の中がすっきりするとか。
私の経験ではそんなことはないし、実際に下田島モデルハウスもセルロースファイバーを使っていますが、夏は空調しないと湿気が出ます。
まだ勘違いしている方が多い気がしますのでくれぐれもお気をつけいただいた方がいいと思います。