小暮:
先日ウチの地元に軒が全く無い真四角な家がありまして、思いっきり夏陽が当たっていました。住んでいる方も暑いんだと思うんですよ。南側の窓全面に、2階から1階までシートが張ってありました。確かに日射は防げますが、中から外が全く見えない。そんな設計だとお客様は不幸ですよね。
松尾先生:
そう。日本人は昔から風通しについては凄く意識が高いけれど、風通しによる効果は、太陽の効果に比べると、遥かに弱いのです。けれど素人さんはもちろん、プロでさえもそのことに気付いていない。大雑把に言えば風の効果より太陽の効果の方が100倍ぐらい大きいと言っても過言ではない。
小暮:
今年の夏は群馬県では40℃を超えました。ところが、私が車で走っていると、2階の窓を開けているお家がある訳ですよ。風通しを狙って家の中を涼しくしたいのでしょうけど、明らかに開ける方が暑いはずです。
松尾先生:
そうです。皆さんも夏に車で走るときに、エアコンを切って窓を開けてみてください。多分熱くて我慢できないはずです。実はまだ、土間があって、深い軒(のき)があって、かつエアコンがなかった時代の生活イメージが、日本人のDNAとして脳裏に強くこびり付いているのでしょう。40℃超えていたらいくら通風を上手にやっても、それは熱風であって、決して冷風ではありません。
小暮:
日本の春夏秋冬のあった頃の、ああいう固定観念だけはまだあるのでしょうね。
松尾先生:
そうですね。それと、エアコンを切った後に即窓を開ける人がいますが、エアコンっていうのは温度を下げているだけじゃなくて、空気中の水分を抜いているんです。窓を開ける事は、折角機械とお金を使って抜き出した水分をもう一回室内に取り込むことになります。目には見えないので、一般の方にはあまり想像できないと思いますが、実際にはそういう事が起こっているんです。
小暮:
私はお客さんの家をお引き渡しの2週間ほど前から測定器で測定することにしています。やっぱり自信を持ってお渡ししたいですから。実際に測って湿度変化を見てみると、面白いですよね。
松尾先生:
そうですね。
小暮:
やはり気密性能が高いと外の湿度に影響されなくなります。冬でも南からの日射取得が上手くいけば、暖房しなくても家の中の室温が27℃くらいに上がってきます。
松尾先生:
うん。27℃はなかなかです。凄く成功した例だと思うのですが。
小暮:
暑いくらいでした。でも本当に窓の付け方などの工夫で、実際にそういう結果も出る訳です。
松尾先生:
私は良く話しますけど、一尋(両手を広げた程度)の幅で、2mの高さの掃き出し窓があれば、その窓1個に直射日光がちゃんと全部当たった時には、コタツ1台分の熱が生まれます。
小暮:
500Wでしたっけ。
松尾先生:
600Wですね。逆に言えば、夏は庇(ひさし)などが無くて、まともに日光が入ってきた場合はコタツ1台分の暖房がついているのと同じくらい暑くなる。冬は無料でお金を貰って、夏は逆に借金を背負わされているのと同じ状況です。ですから(太陽光を)「夏は入れない、冬は入れる」という事が、設計をする上での基本セオリーになります。
小暮:
逆に、北や西は熱が逃げやすい面ですよね。でも世の中には、なぜこんな所に大きな窓を付けたのかという家が意外にあるんですよね。
松尾先生:
そうですね。例えば良い景色がある場合などは、例外的に西・北・東の窓を大きくする事がありますけれども、その場合は、夏の日射がちゃんと遮れる様に、アウターシェイドって言われる様な、外付けの日射遮蔽措置を付けるっていう様な事は、必ず必要になってきますよね。
小暮:
サッシやブラインドの工夫も必要ですね。
松尾先生:
そうです。だから基本法則は南の窓は大きくして、庇(ひさし)、若しくはアウターシェイドを付ける。東西北面っていうのは、出来るだけ小さくする。基本はたったこれだけです。でも、この基本セオリーを破れば破るほど、夏は暑くなり、冬は寒くなり、冷暖房費は高くなる。なので、予算に余裕が無い方程、この基本セオリーは破らない方が良い。破れば破るほど、お客様に不利な住宅になる事は重々お伝えしている訳です。
小暮:
予算がかけられない場合程、本来断熱・気密をしっかりとして、健康リスクに備えつつ、エネルギーコストを抑えた方が良いと。ただ、実際は逆の事が行われちゃうことが多いですよね。やはり可視化出来ないからなんでしょうか。
松尾先生:
そうですね。ウチはお医者さんのお客さんが凄く多いんですけれど、やっぱり職業柄、温度や湿度に気を使う方が多いです。温度や湿度のコントロールが、健康に暮らしていく上で、凄く重要だということをプロとして感じていらっしゃるんじゃないですかね。
対談第一弾
Vol.1 日本の住宅基準はかなり遅れている
Vol.2 夏は入れない、冬は入れる
Vol.3 出木杉くんが嫌われる
Vol.4 日本の家は「裸にカイロ」
Vol.5 絶対に確認すべき3つの数値
Vol.6 安易な工法やシステムに騙されてはいけない
Vol.7 共働き夫婦の時短を考える
Vol.8 努力しない「ラーメン屋」は淘汰される